四竜帝の大陸【青の大陸編】
「あんた、こんな小娘に“輪止”をするのかよ?」

聞いたことが無い声に、起こされた。
目を開けようとしたら強い眩暈と強烈な吐き気を感じて、ぎゅっと目を閉じた。
この感じ……知ってる、覚えてる。
お城に不法侵入したっていう術士にさらわれそうになって、無理やり転移を……転移?
転移……まさか、あの皇女様が!?
 
「必要で無いと思う根拠は? ……意識がもどったようだ。寝ていただけか、のん気な女だ」

両腕で体を支え上半身をあげると、私を見下ろす人達がいた。
2人。
男の人だ。
知らない、この人達を私は知らない。
皇女様に転移させられたとして、此処はどこ?

周囲を見ると、どこかで見たことのあるような景色……中央アジアや中近東を連想させる乾いた大地。
私を見下ろす2人は、ベージュの布で頭部を覆っていた。
布の透き間から僅かに覗く目は、2人とも濃い茶色。
長袖の貫頭衣に、腰には黒い布の帯。
帯に重なるように二重に結ばれた真鋳の飾りがついた革紐には、半月を思わせる曲線を持つ小ぶりな剣。

咽喉が痛むような熱を持った乾いた空気と、硬い土。
ついた手にあたる小石……砂じゃないから、砂漠じゃないよね?
とにかく、この人達に訊いて……あれ? 
声が……出ない?

「へぇ、変わった目をしてるな。人間の女に輪止なんて高い拘束具を使うのもったいねぇじゃん、拾ってくつもりなら縄で手枷でもすりゃ十分だろ?」

吐き気が治まると、言葉がはっきり聞き取れた。
好意的でないどころか、拘束具や縄、手枷なんて物騒な単語に心臓がどくんどくんと暴れだす。

「私から見ても人間に見える……見た目は。だがね、この娘の着ている衣装は特別なものだ。輪止は保険さ」

輪止?
あっ……なに、これ?
私、首に何かつけられてる!?
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