四竜帝の大陸【青の大陸編】
耳飾は音をたてて割れ、中から真っ黒で粘度のある液体が流れ出た。

「くっ、くっせー! あんた何してんだよ!?」

鼻をつく異臭が広がって、私も鼻と口を手で覆った。
塩素系の匂いと石油の匂いがごちゃ混ぜになったような、強烈な匂いだった。

「これか? この雌の血臭を消したんだ。竜の雄ってのは、つがいの体液に敏感だ。ちゃんと処理しておかないとまずい。血臭を辿ってこられたら困る……今の私では、つがいを奪われて怒り狂った雄には勝てない」

 頭部からはずした布で抱えている私の身体と自分の身体を結びながら言う彼に、戸惑うような……少し警戒するように、もう一人の人が言う。

「あんた……なんだってそんなに竜族に詳しいんだよ? 術士って、皆そうなのか!?」

術士。
この人、術士なの!?
どうしよう!
私、また転移でどこかに連れて行かれちゃうの!?

「……いや、そういうわけじゃないさ。私は以前、竜族と揉めて痛い目にあったんでな。……なぁ、アリシャリ。お前は今後、竜族を【商品】として扱う気があるか? 人間より金になるぞ?」
「え? 俺? 俺は伯父貴んとこで働いてるから今は人間専門だけどよ~、金は欲しいなぁ。伯父貴の商売敵が昔、帝都から竜族の餓鬼1匹浚ったんだ。そしたらそいつ等すんげぇ~ひでぇ目にあったんだってさ! だから伯父貴は、竜族と関わらない主義みてぇ……でも、この雌は売って金に換えたい。俺、もう伯父貴からは独立して商売してぇんだよ。だから金が、資金が欲しいんだ」

私には術士の人が、わざとお金の事を前面に出して話題をすり替えたような気がしたけれど。
この人……アリシャリと呼ばれた人には、自分で口にした疑問よりお金の話の方が重要のようだった。

「大丈夫さ。伯父貴殿にばれないように、この雌を売ればいい。私が協力してやる。……しかし、竜族の餓鬼を竜帝のお膝元である帝都から浚うなんて、<赤の竜帝>の両頬をひっぱたいて唾吐きかけたようなもんだ。それはひでぇ目に合わされるだろうな」  
「だよな~。餓鬼浚った3日後に竜族の雄が一人で乗り込んできて、その村の奴等全員殺されたんだってさ。全部殺しちまうなんて、もったいねぇよな~。女と子供は確実に売れて、いい金になるのによ」

帯に重なるように二重に結ばれた革紐から下がる真鋳の飾りを、左手でいじりながらそう言った。
その内容に、私はぎゅっと手を握った。

「見せしめの為の皆殺しだな。……その雄は<赤の竜騎士>だ。普通の竜族はこっちが拍子抜けするほど大人しくてお人好しだか、竜騎士は違う。あいつ等は獣……狂犬だ」

吐き捨てるように言うその術士の言葉には、剥き出しの嫌悪。
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