四竜帝の大陸【青の大陸編】
「私は<赤の竜帝>の契約術士をしていたんだ」
足を止め。
前を見たまま。
その声は小さいけれど、風の音しかないここでは十分だった。
「だが、術式に不可欠な<基点>を竜騎士に……狂犬共を仕切ってたあいつに壊されて、今では術士としては底辺だ。<赤の竜帝>の契約術士にまでなった私が、辺境の奴隷商人などにはした金で雇われて……」
この人が、<赤の竜帝>さんの契約術士だったの?
だから竜族に詳しかったんだ……えっ……な、なにっ!?
彼は顔は動かさず、茶色い目だけを動かし、私の顔から足先までゆっくりと見始めた。
その視線は身体を“見る”とういよりも……。
<青の竜帝>の『青』に包まれた私の身体ではなく、その下……皮膚のさらにその下の、私の中(・)を探られるような……まるで視線が体内を通り抜けるかのような、奇妙で不快な感覚。
「お前の竜珠の位置は……」
竜珠……竜珠の位置?
それって、まさか……。カイユさんのお母さん……ミルミラさんは、術士に竜珠を奪われ亡くなった。
……この人、まさか。
竜珠を……この身体の中にあるハクの竜珠を、奪うつもりなの!?
あの時、カイユさんは言った。
=母は生きたまま腹を裂かれ臓腑を荒らされ、竜珠を奪われました。
生きたまま。
奪われる。
――ハッ……っひ!?
声が出ないのを忘れ、ハクの名を叫びそうになった私の髪が強い力で引っ張られた。
同時に苛立ちと失望が濃く滲む声が、叩き付けられる。
「くそっ! 今の私の術力では、竜珠の在りかすら判らないっ!」
私の顔を覗き込むようにして、深い皺を刻んだ顔が間近にせまる。
「私を見捨てた赤の陛下に、大事な大事な同族の竜珠を贈って差し上げたかったのにっ!」
吐息のかかる距離で、黄ばんだ歯を剥き出しにして言う彼から私は顔をそむけた。
「……くくっ。竜珠を奪われ死ぬほうが、競りに出され人間に飼われるより幸せだと思うぞ?」
幸せ?
死ぬより飼われる事が?
違う。
違う、違う!
その“幸せ”は違う!!
あんたなんかに!
あんたなんかに、私の“幸せ”を奪わせない!!
「うっ!?」
黄ばんだ歯と煙草と漢方が混じったような口臭のする口を持つ顔を、ぎゅっと握った両手で思いっきり叩いた。
「この雌蜥蜴めっ!!」
怒鳴り声と同時に、後頭部に強い衝撃。
「くそっ、意識が無くなると重くなるからしたくなかったってのに……もう歩くのは止めだ! ここでアリシャリと馬を待つ!」
急に意識が下へ下へと吸い込まれるように、まるで柔らかなゼリーに飲み込まれていくかのように沈んでいく。
私はそれに逆らわず、全てを委ねた。
――目が覚めたら、おはようってハクが言ってくれる。約束したんだもの……。
私の“幸せ”は、私が決める。
私の“幸せ”は、ハク。
貴方が。
私の“幸せ”。
足を止め。
前を見たまま。
その声は小さいけれど、風の音しかないここでは十分だった。
「だが、術式に不可欠な<基点>を竜騎士に……狂犬共を仕切ってたあいつに壊されて、今では術士としては底辺だ。<赤の竜帝>の契約術士にまでなった私が、辺境の奴隷商人などにはした金で雇われて……」
この人が、<赤の竜帝>さんの契約術士だったの?
だから竜族に詳しかったんだ……えっ……な、なにっ!?
彼は顔は動かさず、茶色い目だけを動かし、私の顔から足先までゆっくりと見始めた。
その視線は身体を“見る”とういよりも……。
<青の竜帝>の『青』に包まれた私の身体ではなく、その下……皮膚のさらにその下の、私の中(・)を探られるような……まるで視線が体内を通り抜けるかのような、奇妙で不快な感覚。
「お前の竜珠の位置は……」
竜珠……竜珠の位置?
それって、まさか……。カイユさんのお母さん……ミルミラさんは、術士に竜珠を奪われ亡くなった。
……この人、まさか。
竜珠を……この身体の中にあるハクの竜珠を、奪うつもりなの!?
あの時、カイユさんは言った。
=母は生きたまま腹を裂かれ臓腑を荒らされ、竜珠を奪われました。
生きたまま。
奪われる。
――ハッ……っひ!?
声が出ないのを忘れ、ハクの名を叫びそうになった私の髪が強い力で引っ張られた。
同時に苛立ちと失望が濃く滲む声が、叩き付けられる。
「くそっ! 今の私の術力では、竜珠の在りかすら判らないっ!」
私の顔を覗き込むようにして、深い皺を刻んだ顔が間近にせまる。
「私を見捨てた赤の陛下に、大事な大事な同族の竜珠を贈って差し上げたかったのにっ!」
吐息のかかる距離で、黄ばんだ歯を剥き出しにして言う彼から私は顔をそむけた。
「……くくっ。竜珠を奪われ死ぬほうが、競りに出され人間に飼われるより幸せだと思うぞ?」
幸せ?
死ぬより飼われる事が?
違う。
違う、違う!
その“幸せ”は違う!!
あんたなんかに!
あんたなんかに、私の“幸せ”を奪わせない!!
「うっ!?」
黄ばんだ歯と煙草と漢方が混じったような口臭のする口を持つ顔を、ぎゅっと握った両手で思いっきり叩いた。
「この雌蜥蜴めっ!!」
怒鳴り声と同時に、後頭部に強い衝撃。
「くそっ、意識が無くなると重くなるからしたくなかったってのに……もう歩くのは止めだ! ここでアリシャリと馬を待つ!」
急に意識が下へ下へと吸い込まれるように、まるで柔らかなゼリーに飲み込まれていくかのように沈んでいく。
私はそれに逆らわず、全てを委ねた。
――目が覚めたら、おはようってハクが言ってくれる。約束したんだもの……。
私の“幸せ”は、私が決める。
私の“幸せ”は、ハク。
貴方が。
私の“幸せ”。