四竜帝の大陸【青の大陸編】
『殺せって……んな、無茶な』

俺は剣を鞘に収め、旦那の顔を見た。

ありゃ~。
まずいな。
本気か?
 
ま、旦那に冗談を言う余裕なんか無いか。
姫さんが目覚める前に戻りたいんだろうし。
まどろむ程度の浅い眠りでは、時間は無いに等しいからなぁ。

『セイフォンを消す。無かったことにする』

旦那は眼だけ動かし、魔女閣下を見下ろした。

『そんなこと……トリィ様が許しませんわよ!? 彼女に嫌われてもよろしいの!?』

精一杯の強がりにしたって、すごいなぁ閣下。
この旦那と渡り合おうとする根性は、賞賛に値する。

『すべて消す。りこを知る者は。……りこに真実を告げる者など残さない』

旦那が動いた。
一瞬でダルド王子のもとに移動し、片手で首を掴み軽々と持ち上げる。

『ぐっ!』
『ちょっ。旦那、王子が死んじまいます』

王子の首は折れてはいない……旦那はもともと力加減の制御ができない人じゃない。
姫さんに関しては特例中の特例だ。
恋焦がれるあまり……ってやつだな、うん。

『殿下!』

術士の少女が悲鳴をあげる。
だが、腰を抜かし床から立ち上がることすらできない。
老人と男……大臣だったな。
この二人は昏睡状態だ。
<悪魔>なんて言ったからなぁ。
旦那は意識を落としただけで、殺しちゃいない。

ん?
なんでだ?
意識落とすなら、殺しちまえばいいのに。

殺せって言ったよな!?
この人、自分でできるだろ? 
簡単に……。

『まさか……そのために俺を連れてきたんですか!』

旦那は王子から眼を放さず言った。

『我はりこに怒られたくないし、嫌われたくないからな』

そうきたか!

『うがぁー! 汚いですよ!? 俺に罪をなすりつけようって? この人でなしが!!』

なんという自己保身! 
自己中にもほどがある!

『お断りしまっ……』
『我に忠誠を誓っていたのは誰だ?』

へ?
あの時、聞いてたんですか? 
あんた、無反応だったですよね?

『我とりこの幸せの為に喜んで捨て駒になると宣言したではないか』

してないです。
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