四竜帝の大陸【青の大陸編】
「え? そうなの? パパ、知らなかった! 良く見えるように、マ……陛下が出て行ってから、パパが勝手に灯りをつけちゃったんだよ。ご、ごめんねダッ君」

親父は竜帝である母さんや竜騎士である俺と比べると、視力が劣るからなぁ。
 
「いいよ、まぁ……大丈夫」

大陸間電鏡の仕様規約を知っている<赤の竜帝>が、自分のつがいが懲罰くらうかもしれねぇってのに置いていった。
その原因と理由は<赤の竜帝>が戻ってきた後に、親父を退出させてから訊くか……。

<赤の竜騎士>の現団長がなぜ<赤の竜帝>を呼びに来たのか、親父が<赤の竜帝>に訊く権利は無く、本人も訊くべきじゃないことを理解している……昔から、父さんはそう(・・)だった。
<赤の竜帝>のつがいだが政治的な事には一切関わらず、『ひよこ亭』の店主として働いている。
姫さんにも言ったが、俺の父親は本当にただの食堂の親父だ。
俺とは違う。
このエルゲリストは俺の母親ブランジェーヌにとって、夫である前に一族の一人として『守るべき者』だ。

「ダッ君、ごめんね、ごめん! パパ、またダッ君と陛下に迷惑をかけちゃったよね?」
「父さんが迷惑なんてかけたこと無いよ。そういう事言ってると、また“お仕置き”されるぜ?」

<赤の竜騎士>だった俺が何をしていたか、親父は知らない。
普通の竜族だ。

「でもっ、僕っ」
「いいんだよ、父さんはそのままで」

父さんは、そのままで。
ただの親父でいて欲しい。

「……そう。君も“陛下”と同じこと言うようになったんだね」

その言葉はどこか寂しげな笑顔ともに、俺の中で溶けて染み入る。

「父さん……」

<赤の竜帝>であるブランジェーヌ。
竜騎士であり、<色持ち>である俺。

目に見えぬ線をひいたその愛情が、正しいのかどうか俺には分からない。
ミルクチョコレートの瞳が、俺と母さんを責めるような色を帯びたことは無い。
隠し切れない寂しさを、愛しむ心を混ぜて温かなものへと変えて。

「うん、ダッ君。それでいいんだと思うよ」

その目舐めたなら。
きっと、甘くて優しい味がするだろう。


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