四竜帝の大陸【青の大陸編】
「父さん。赤の陛下が連絡してきたのは、その着ぐるみ姿を見せたかったわけじゃないんだろう?」

俺は後方に立つ陛下とカイユの視線を背に感じつつ、親父に訊いた。
陛下はともかく、突き刺さるようなカイユの視線が俺の背骨にぐさぐさと食い込む。
いつもだったら俺と親父のやりとりをあたたかく見守ってくれるんだが、心に余裕の無い今のカイユにとっては、この能天気親父は苛付くことこの上ないだろう。
ひよこ好きな親父は脳内で万年タンポポが咲いているような性格が美点でもあり、欠点でもある。

「あ、うん! 僕のお店の常連さんが教えてくれたことを、ダッ君に伝えたかったんだ。あのね、西域のバザールで竜族の衣装が売られているのを見たんだって!」
「西域で、竜族の?」

赤の大陸の西域は砂漠地帯や乾燥しやせた土地が多く、竜族が好まない環境だから定住している赤の一族はいない。
竜族相手の商品じゃねぇな……人間の古着商が、たまたま手に入れたんだろう。

「うん。もしかしてトリィさんのじゃないかな? その人は帝都を離れて旅行中だったから、<監視者>のつがいが行方不明で竜族総出で探してるってことを知らなかったんだ。だから降りてまで確認しなかったんだって。帰宅後にお孫さんから聞いて、大慌てで僕のところに来たんだよ!」

ひよこ亭のエルゲリストが<赤の竜帝>のつがいだってことは、周知の事実。
この親父に言っておけば、必ず<赤の竜帝>に伝わるからな……。
鼻息荒く一気に喋った首から下はひよこな中年男に、カイユが陛下の側から俺の隣に移動して冷静に答えた。

「お言葉ですが。義理父上様、竜族の手放した衣装が地方で売られているのは珍しいことではありません。素材が良いので仕立て直し、人間用に販売することを目的とした業者が青の陛下の帝都にも買取用店舗を構えているほどですから」

カイユの言う通りだった。
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