四竜帝の大陸【青の大陸編】
「貴方って、どうしてそう身なりに無頓着なのかしら? まだ未婚の<黄>が居るというのに……猥褻罪で牢に入れるわよ?」
母さん自身も既婚の竜族として、かなりまずい格好なんだが。
自分のことは棚上げ状態で、旦那を上から下まで確認するかのように見るその目には責める色。
黄色いひよこ男は腰が抜けたのか、ひよこというよりあひるのような間抜けな状態で床に座り込んでいた。
旦那はそれらを綺麗に無視し、左の手のひらを床へと向けた。
白い手から、ぱらぱらと何かが落ちた。
「……針?」
床に落ちたのは、銀色の針だった。
俺の目には裁縫用の針にしか見えない。
旦那が裁縫用の針?
まったく結びつかない。
「クルシェーミカが私を呼びに来たのは、この人が原因なのよ。私の部屋の扉を吹き飛ばして入って行くのを、通りがかったクルシェーミカが見てたの」
針。
針か……。
母さんの趣味は、旦那も知っている。
私室に針箱や手芸道具があるのを、知っている。
「私はヴェルヴァイドに、電鏡の間にトリィさんの件で皆が揃っているから急いで顔を出してって言って、こちらへ戻ってきたのよ。もし人型になるなら、衣装庫の服を着てから来てちょうだいって頼んで……とりあえず私の外套を貸してきたんだけれど。裸で城内を歩かれたら困るし」
赤い瞳が、足元に散らばった針に向けられる。
「56、7……58本。これだけあっても、足りないの?」
その問いに、旦那は答えなかった。
針……針。
旦那はさっき、なんて言った?
「942、だよな」
俺の頭の中で。
「58と、942……」
姫さんの歌声が響く。
―――指キリゲンマン
温室の池の縁に腰掛けて。
旦那の4本指の一つと、小指を絡ませ上下に動かし。
はにかみながら、小さな声で歌っていたのを思い出す。
「……1000? 1000の針……」
―――嘘ツイタラ 針千本 飲マス
銀に輝く、58本の針。
その輝きが、俺の身体を凍らせた。
母さん自身も既婚の竜族として、かなりまずい格好なんだが。
自分のことは棚上げ状態で、旦那を上から下まで確認するかのように見るその目には責める色。
黄色いひよこ男は腰が抜けたのか、ひよこというよりあひるのような間抜けな状態で床に座り込んでいた。
旦那はそれらを綺麗に無視し、左の手のひらを床へと向けた。
白い手から、ぱらぱらと何かが落ちた。
「……針?」
床に落ちたのは、銀色の針だった。
俺の目には裁縫用の針にしか見えない。
旦那が裁縫用の針?
まったく結びつかない。
「クルシェーミカが私を呼びに来たのは、この人が原因なのよ。私の部屋の扉を吹き飛ばして入って行くのを、通りがかったクルシェーミカが見てたの」
針。
針か……。
母さんの趣味は、旦那も知っている。
私室に針箱や手芸道具があるのを、知っている。
「私はヴェルヴァイドに、電鏡の間にトリィさんの件で皆が揃っているから急いで顔を出してって言って、こちらへ戻ってきたのよ。もし人型になるなら、衣装庫の服を着てから来てちょうだいって頼んで……とりあえず私の外套を貸してきたんだけれど。裸で城内を歩かれたら困るし」
赤い瞳が、足元に散らばった針に向けられる。
「56、7……58本。これだけあっても、足りないの?」
その問いに、旦那は答えなかった。
針……針。
旦那はさっき、なんて言った?
「942、だよな」
俺の頭の中で。
「58と、942……」
姫さんの歌声が響く。
―――指キリゲンマン
温室の池の縁に腰掛けて。
旦那の4本指の一つと、小指を絡ませ上下に動かし。
はにかみながら、小さな声で歌っていたのを思い出す。
「……1000? 1000の針……」
―――嘘ツイタラ 針千本 飲マス
銀に輝く、58本の針。
その輝きが、俺の身体を凍らせた。