四竜帝の大陸【青の大陸編】
<赤の竜帝>の治める帝都は、赤の大陸のほぼ中央に位置している。
 数千年前に隆起したこの場所は、剥き出しのの岩肌が『下』からの侵入者を排除していた。
 竜族だけでなく人間も自由に出入り可能な青の帝都とは違い、『下』にある関所で定められた手続きをとらねば人間はこの街へは入ることが出来ない。
『下』の荒涼とした乾いた景色と一変し、ここは緑に溢れ、水路には常に澄んだ水が流れている。

区画整理された街の中心地点に、そのブランジェーヌの居城がある。
赤砂岩と大理石を使った左右対称の建築様式のこの城は、3代前の赤の竜帝の時代に立て替えられたものだ。
象牙色のタイルが敷かれた中央庭園を囲うように浅い池が造られ、その水面は花を泳がせながら空を映している。

「……」

我の歩くこの回廊は、獅子の彫刻が施された円柱が色彩豊かな架空の鳥や花が描かれた天井を支えていた。
庭園と一体化したこの回廊を吹き抜ける風が、我の髪で戯れる。
我の前を、放し飼いにされている瑠璃色の孔雀が尾羽を小刻みに揺らしながら小走りで駆け抜け、庭園の緑の中に消えて行った。

「……りこ」

落としていった羽毛が一枚、足元で軽やかに舞う。
我は身をかがめ、それを拾い、手のひらに……乗せた途端に、我の髪で戯れていた風によって飛びだった。
鳥の一部だったそれは、茂みに持ち主から離れて天に舞う。
それは自由に。
それは孤独に。
独りで、舞い踊る。

「りこ。何故、貴女は我を呼んでくれぬのだ?」

ハク、と。
我への想い聞かせてくれた、貴女のその口で。
我と睦みあった、貴女のその唇で。

「我の名を、呼んでくれっ……」

掴むべきものを、繋ぎあうものを見失ってしまった我の右手を。
左手で強く……強く握った。
爪が肉に食い込み、骨を砕いて突き抜ける。

「……りこ。痛い、のだ」

痛いと、思った。
肉の損傷も四肢の欠落も、どうでもいいいとしか思えぬこの我が。

痛いと……感じたのではなく、思った。
 
「痛い」

貴女が呼んでくれたなら。
我はすぐに貴女の元へ行き、この腕で貴女を抱きしめるのに。

貴女の声が、聞こえない。
我の声が、貴女に届かない。

「我は痛いのだ、りこ……」
 
鮮やかな赤に染まり、穴の開いた我の右手を。

「……痛い、のだ」

青の大陸よりも濃い陽が、射抜く。

りこ。
貴女への愛しさが。
我を喰らい、吼えている。


 
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