四竜帝の大陸【青の大陸編】
『触るがいい』

撫で回し、頬擦りしてくれるとさらに嬉しいのだが。

『……この顔でその口調。似合いすぎ』

何がおかしいのか、りこは声をあげて笑った。
我の顔は笑えるほど変なのか?

りこが笑うと我は‘嬉しい’。
りこの細い指が我の頬に触れ、ゆっくりと柔らかな手の平の感触が……。

『本物だ。作り物みたいだったから、確かめてみたかった』

黒い瞳が、我の眼を覗き込む。

『同じ。同じね。竜のハクちゃんと同じ』

りこは視線を落とし、我の手を見て眼を細めた。

『手をにぎにぎするのも同じ。ハクちゃんは同じ。……変わったのは私。変わらなきゃいけないんだと思うの』

りこは我の顔から手を離し、両手を我の‘にぎにぎ’している手に添えた。

『竜でも人でもいい』

我の手を、りこの小さな手が。

『離さない』

強く握る。
りこの精一杯の力で。

『離せない』

りこは我の胸に顔をつけ、言った。
小さな声だったが、はっきりと。

『りこ』

あぁ。
我は歓喜する。
捕らえられたのは我。
鎖で繋がれ、首輪をつけられ飼われてもいい。

りこ……我は!
我は、りこが欲しっ……!

『あれ? ここ切れてる!』

ああ、腕を斬られたからな。
服も斬れ……。

『こんな高そうな服! 借り物でしょう!? ど、どうしよ! カ、カイユ~!』
『む?』

りこはさっさと我から離れ、カイユの名を叫びながら去っていった。 
りこ。
服が切れて無かったら、りこと我はダルフェがいう「いいムード」が進行していたのではないか? 
さすがに、我だって分かるぞ。

<青>のせいだな。
踏んだついでに、止めを刺すべきだった。

そういえば、途中で戻ってきてしまったな。
りこを知る人間を全て<処理>すれば、りこを利用しようとする者は居なくなる。
りこの憂いを減らせると思ったのだが。

目障りな王子も消えて一石二鳥の案だと……。
帝都に行くならば、王子の援助もいらぬし。
だが今、思うと……少々短絡的行動だったやもしれぬ。
りこと痴話喧嘩(ダルフェ曰く)という初めての事に遭遇し、我も思考能が鈍ったか?
やりかけ……殺りかけ状態だが。

『ダルフェがどうにかするだろう』
 
それに我はなかなか良い気分なのでな。
我が思うに……。

愛玩動物から格上げされたのだ、我は!

多分、な。

『……りこに触る訓練を再開せねば』

ラパンの実は、まだ在庫があっただろうか?
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