四竜帝の大陸【青の大陸編】

19

服を着替えたハクちゃんと衣装室から出ると、ダルフェさんが居た。
彼はハクちゃんを見ると、緑の眼をまん丸にして口をパカーンと開けた。

「だ、旦那っ……」

ハクちゃんは私を‘お姫様抱っこ’していた。
私は恥ずかしいよりも緊張で、顔がこわばってしまう。

「ダルフェ、駄目! ハクちゃん、精一杯! 刺激だめ!」

私を支える腕が、小刻みに震えているのです!
力加減を間違えないように、ハクちゃんは必死だった。

……無表情だけどね。

「姫さん、無事か?」

ほっとしたようにダルフェさんが息を吐いた。
ご心配をおかけして、すみません。

「へ、平気です。ハクちゃん、頑張っています!」

腕が痙攣してんじゃないのかってくらい、ぷるぷるしてはいますが。
なんとか私を潰さずできてます!




私は先ほどのやり取りを思い出し、引きつった笑いを浮かべてしまった。
お風呂の件で、私はハクちゃを泣かせてしまった。
あの無表情魔王様顔の彼が、泣いた。

私は男の人とお風呂に入るなんて現時点では考えられない、ってか無理だったから。
ハクちゃんは伴侶……一応夫なんだから、将来的には平気になるかもだけど。
今は駄目、無理!
つがいとはいえ、これから世間で言う‘お付き合い’を始める関係なんだから。
いきなりお風呂なんて、ハードルが高すぎる!

「い、いいいっ、嫌! 絶対、駄目!」

私はハクちゃんから距離をとり、叫んだ。

「へっつ変態!……へへへ変質者!」

語彙の少ない私は取り乱したせいか、拒否の言葉に今日覚えたばかりの単語を使ってしまった。

言ってから、しまったと思う。
ここで使うのは間違ってる。
違う。
恥ずかしいから、まだできないって言うべきだったのに。

「わ、私、えっと」

い……言えない。
なんか、すごく恥ずかしくて。

ど、どうしようっ。

「り……」

金の眼を見開き、ハクちゃんは固まってしまった。
そして。

ぽろ。

水滴が、黄金の眼から落ちた。

たった一滴。
だけどこれは涙。

透明な雫。
前の涙が<かけら>だったと、はっきり分かった。

「ご、ごめんなさい! ごめっ……」

今のは、私が悪い!

「ハクちゃん、あ、あの」

飴と鞭。
飴。
飴!

「お風呂はそのうち! しばらくお休みなだけ、ね? 他、違うことで。出来ることを」

あわあわと焦る私に、ハクちゃんは言った。

「……竜体の時にりこは我をよく‘抱っこ‘してくれた」

え、うん。
確かに。
抱っこしたり膝にのせたり。
だって、おちび竜の貴方は可愛かったから……。

「我も、したい」
「え?」

と、いうやりとりがあり。
抱っこ⇒お姫様抱っこになってしまった。


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