四竜帝の大陸【青の大陸編】
「風呂は‘お休み’。我は我慢する。我は変態や変質者では無いので我慢できる」

根に持ってますね~、むむ。

「で、でもハクちゃんは力が強いから。カイユが危険だからって」

そうなのです。
恥ずかしいとか照れるとか、そんな甘い理由ではなく。
抱っこは身の危険……命に係わる大問題!

「りこ」

金の眼が私を見る。
すがるような眼差し。

「……りこ」

ああ、駄目。
私はこの種のきゅい~んな眼差しに弱いから、ペットショップには絶対行かなかった。
妹はかわいい子犬や子猫を見れるからって、よく行くみたいだけど。
 
長身のハクちゃんに、ぶるぶる震えるうるうるお目々の仔犬の姿が脳内で重なってしまった結果……。

「う、うん。いいよ! な、なんとかなるよ、うん」

撃沈。
完敗です。
骨折、嫌だな。
せめて打撲で済むといいな……。

「姫さん。あんまり旦那を甘やかすと痛い目みるぞ」

ダルフェさん。あの‘きゅい~ん’の眼を見てないから、そんなこと言えるんですよ。

雨の中に迷う子犬。
ダンボールの中の子猫。
買い手を求めるペットショップの小さな生き物。
勝てるわけがない。

「何用だ、ダルフェ」

結局、また黒い服を着た悪役決定!みたいなハクちゃんが、ダルフェさんを見て言った。
横柄に言うハクちゃんに、さっきの‘きゅい~ん’の面影は皆無。

「何って。陛下が来てんですよ。門のとこで旦那の許可待ちです。ハニーが旦那は必ず許可を出すって言ってましたが……」
「陛下って王様?」

私の質問に、ダルフェさんは疲れた顔で言った。

「青の竜帝陛下が到着したんだよ。あの方は姫さんに会いたいそうだ」

青の竜帝陛下!?

「駄目だ」

なんで~!?

「<青>はつがいを得ていない雄だ。りこに会わせるなどでき……」
「なんでよっ!?」

私はハクちゃんの腕の中で抗議した。
せっかく来てくれたんだし、なんたって竜帝陛下なんてなかなか普通は会えないんじゃないの? 


「駄目だ。嫌だ」

会いたい、見たい!
あ、こういう時に使うのね?
カイユさんはハクちゃんが駄目って言うのを、分かってたんだ!

「ハクちゃん、お願い」

ハクちゃんの金の眼が私を見下ろす。

「お願い、です」
「……りこ」

ハクちゃんはため息をつくと、私の首筋に顔をうずめるようにして……。

「我から離れるな、りこ。……死人を出したくないのならな」

物騒な言葉に絶句する私に、ダルフェさんが追い討ちをかけた。

「竜帝と旦那が本気でやりあったら巻き添えで俺とハニーはあの世行きです。セイフォンも消えると思いますよ。姫さん、頼みましたよ?」

勘弁してよ、もうっ!


 
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