最後の恋、最高の恋。
「分かったから早く来てね、今マグカップどっち買うか迷っててお姉ちゃんに選んでもらおうかな」
ピンクのマグカップの縁を、空いた手の人差し指でつっとなぞって微笑めば、電話の向こうからは楽しそうな声で、
『そうね、選んでもらって』
「……え?」
『センスは悪くないし、意地悪いけど根はいい奴だし、ちょっと扱いづらいけど悪い奴じゃないから』
一体お姉ちゃんが何の話をしているのか分からなくて、「お姉ちゃん、何の話してるの?」と待ったをかけてみるけど、『じゃ、健闘を祈ってる』と訳の分からない言葉を最後に無情にも通話は切られてしまった。
規則的な音を響かせる携帯を唖然としながらしばしの間見つめて、パチンと携帯を閉じて鞄にしまった。
さっきの喫茶店からこの店までそんなに距離ないし、お姉ちゃんに直接きけばいいや、とすぐに切り替えられるのは、数少ない私の長所だ。
もう一度視線を二つのマグカップに落としたとき、ポンと肩に手を置かれて思わずビクリと身体が跳ねる。
「久しぶり、美月ちゃん」
そう優しげな声が後ろから聞こえただけで、相手が分かってしまう私はたぶん記憶力がいいんだと思う。
さっきお姉ちゃんと話す会話を聞いていたんだから予想が立たない方がバカだ、という突っ込みは今しないでもらいたい。
私は今、なんでこの状況になっているのかを理解しようとすることでいっぱいいっぱいだから。