最後の恋、最高の恋。
Truth
さすがに会社から家まで走って帰ることもできずに、もう限界まで走り続けた私はさびれたビルの壁に寄りかかりながらずるずるとしゃがみこむ。
そこが路肩で少し汚れていることすら気にする余裕もなくて、膝に顔をうずめながら乱れた息を落ち着けるために、走りすぎて痛い喉でゆっくりと深呼吸を繰り返す。
首に巻いていたマフラーは、どこかに落ちてしまったのか首元にその存在は無くなっていた。
坂口さんも、あれだけ私に“好き”という感情を伝えておきながら、あっさりと私から離れて行った。
みんな、みんな、離れていく。
「もしかして、マフラーまで、お姉ちゃんのとこに、行ってたりして」
まだ整わない呼吸のままひとり呟くけど、なんだかそれが現実に起こりそうと思えるのが、笑えてくる。
実際、私は小さく笑っていた。
大切にしてきた恋が、きっと今日実ると思っていた恋があっけなく散ったというのに、涙が出ない。
こうやって坂口さんもお姉ちゃんも誰もいない、道行く人なんかしゃがみこんだ私なんかを気にも留めていないというのに、涙が面白いくらい全然出てこなかった。