最後の恋、最高の恋。
部屋の中はひんやり冷たくて、リビングらしき部屋まで運ばれた後、抱き上げられた強引さとは正反対に今度はゆっくりと、壊れ物を置くようにそうっとソファへと降ろされた。
すぐに離れていく坂口さんの姿を視線だけで追いかける。
カーキのコートを脱いでソファの端に投げかけた後、その足でリモコンをいじってエアコンをつけてくれた。
そしてキッチンに消えてしばらくしてから、両手にマグを持った坂口さんが戻ってくる。
「熱いから気を付けて」
差し出された湯気のたつマグを両手で受け取って、その中に入っている紅茶らしきものをじっと見つめながら、気を紛らわせるためにふぅふぅと息を吹きかける。
コーヒーの香りもするから、多分坂口さんのマグに入っているのはコーヒーなんだろうけど、私がブラックは飲めないから紅茶をわざわざ淹れてくれたんだろうか。
ただの願望なのに、そう考えるだけでポッと心に火が灯ったように温かくなるから不思議。
お姉ちゃんにああ言って貰えたから、私の中で意固地になっていた部分が溶かされて、どろどろにこの恋が私の胸を侵食していくのが分かる。