最後の恋、最高の恋。



坂口さんと出会ってから今まで、彼が私の会社まで迎えに来たことは一度もない。


この間、私が彼の会社まで行ったのだって初めてだった。



いつもたいていは休日に家まで来てくれて出かけたり、会わずにメールや電話で連絡を取っていたから。


初めてのことに戸惑いを隠せない。

今朝のこともあるから余計に、会うのが恥ずかしいんですけど……。


とは言えずに、今の私を見ているのは興味津々に目を輝かせている藤田さん以外にはいないのに、大きく深呼吸してドキドキする心臓を落ち着かせてから、携帯のボタンを丁寧に押していく。



“分かりました。待ってます。
お仕事頑張ってくださいね”


断りのメールでも、遠慮するメールでもなくて、素直に受け入れるメールは、短文でもすごく勇気が必要だった。

それでも素直にそう送れたことがとても嬉しくて、自分が少しずつ変わっていることをじわじわと実感する。

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