最後の恋、最高の恋。


それまでは、自分で作れるものが限られているから“何が食べたい?”と美月ちゃんが聞いてくることもなかったし、俺もこうやって聞くこともなくただ毎回唯一美月ちゃんが作れるチャーハンを食べさせてもらっていた。


でも、ある日美月ちゃんが突然「何が食べたい?」と聞いてきて、練習してきたのかな、と勝手に思った俺は、グラタンと答えたんだけどさっそく調理を始めた美月ちゃんを何ともなしに見ていたら、その手つきに本当に生きた心地がしなかった。

野菜を押さえて切ればいいのに、何故か左手はシンクを握りしめ、右手に持った包丁を振り上げて勢いよく振り下ろして切っていたのだ。
これはもう、不器用とかそういう問題じゃない、と判断した俺は後ろから美月ちゃんを捕獲して、「一緒に料理を少しずつ覚えていこう」と変な意味でドキドキしながら提案した。


それ以来、徐々に美月ちゃんは野菜を切るのもうまくなったし、今ではほとんど一人で料理ができるまでに成長している。

一緒に作ると言っても、俺は材料を出したり、調味料を取ったり、補助的な役割しかしていない。


美月ちゃんは不器用だけど、それを頑張って努力して続ければ、出来るようになる。

出来ない、と諦めることなく続ける姿にまた惚れ直していたりするんだけど。

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