最後の恋、最高の恋。


仕事帰りなのか、スーツのままの学はやっぱりとってもカッコイイ。


思わず階段を駆け降りた勢いのまま学に抱きついて、かぎ慣れた学の匂いを思いっきり吸い込む。


「美月、あなた坂口さんが好きなのは分かるけど、私がいること忘れないでね」


という呆れたようなお母さんの声で、慌てて学から離れる。
どうして学がいるの? と聞く前に、私が学を見上げたタイミングで、


「ちょっと心配で様子見に来た」


と私が聞きたいことを答えてくれる学。
相変わらずのエスパーっぷりは健在だ。

あがって行きなさい、というお母さんの言葉に頷いた学は私の部屋にお母さんに案内されている。
私が一緒に行こうとしたのに、お母さんに「アンタは飲み物くらい用意してきなさい」ともっともなことを言われてしまったのだ。


料理はまだまだ得意とは言えないけれど、私だって紅茶とかコーヒーくらいは淹れられる。

部屋にいる学が気になって、慌てて学の分のコーヒーと私が飲むカルピスを用意してお盆に乗せて、溢さない程度の早歩きで部屋まで運んだ。
そこにはもうお母さんはいなくて、学が私のベッドを背もたれにネクタイを片手で緩めているところだった。


……くそぅ、かっこいい。

付き合って結構経つというのに、未だにドキドキさせる学はズルいと思う。
できれば私も学にドキドキしてもらいたいけれど、この色気の無さじゃ到底無理じゃないかと自分では思っている。


「で? 春陽と誠人はどうなった?」


お盆をローテーブルに置いて、学の隣に座ったところで学が切り出す。
私はそれにさっき電話で会ったことを話すと、「美月、やるねぇ」と学はくつくつと笑いだした。

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