最後の恋、最高の恋。
「面倒見てくださいって、……どうすんだよ」
一方的に言われるだけ言われて突然切れた携帯は、今はプープーと機械的な音を断続的に発するだけだ。
逆パカしたくなる衝動をなんとか押さえて、通話終了ボタンを力任せに押した。
それを隣の席で突っ伏している春陽の手元に置く。
ストレートの髪が若干乱れて、酒に酔ってるせいか真っ赤になった顔にぱらぱらとかかっている。
そんなフツーの女がやっていたらみっともないと評される仕草でさえ、春陽がやると男たちの視線を集めるものに早変わりだ。
事実、居酒屋に似合わない春陽がこの店に入ってきたときからチラチラと視線をよこす輩が、今では視線を戻すことなく春陽のことを凝視している。
それを隠すように自分の上着を春陽の上にかぶせれば、体格差が歴然としている俺のジャケットで春陽はすっぽりと覆われてほぼ見えなくなった。
「……なんでおれがこんなこと」
思わずぼやいてしまうのも仕方ないだろう。
春陽は、初対面では“完璧な人間いるんだな”と思わせたにもかかわらず、付き合いの年数が増えていくごとに意外とぽやぽやというか、抜けているというか、思わず“どこが完璧だって?”と眉根を寄せたくなるような人物であることがだんだんと分かってきてしまったのだ。