最後の恋、最高の恋。

本人が陰ながら努力をしていることも知ってるし、もちろん生まれつき備わった理解力の速さや判断力決断力は飛びぬけてはいる。
それでも仕事じゃない、気の抜けたときの春陽はふいに無防備になることが多々あるのだ。


……今日はその中でも一番の無防備さかもしれない。


思わずジョッキに半分残っていたビールを一気に煽る。

少しぬるくなっていたそれはのど越しはあまりよくないうえに、イマイチ酔えない。


酔っていれば美月ちゃんから言われた言葉に何も考えずに従って、我が家に連れて帰ることもできただろう。
でも、今日は違う。


居酒屋についてからというものの、春陽はしゃべることなく真っ先にらしくもないビールをジョッキで頼み、ちびちびと、でも確実に量を飲んでいった。

こうなると心配でおちおち飲めなくなるのが当たり前で、春陽がジョッキ2杯目を飲み終えたあたりで、俺は一杯目のジョッキを半分でやめたのだ。

……残りは今飲み干したわけだけど。


だからジョッキ一杯で酔えるわけもなく、理性も残っているこの状況で、春陽を自宅へ連れて行くのは常識としてどうかと考えてしまうのも分かってもらえるだろう。


俺のジャケットから少し見える真っ黒な髪を何ともなしに見やる。

今時、黒髪は珍しいけど黒髪はそそられるものがある。

人目を引く文句のつけようのない容姿、完璧なように見えて気の許した人に見せる隙のあるところ。

俺は、春陽のことをどう思っているのだろうか。


じっと黒髪を見つめながら、長年考え続けて、分からずに応えの出ないままきていたその問いを再び考え始める。




分からないのか、分かりたくないのか。
それさえ考えることをしたくない。




……俺はコイツとどうなりたいんだろうなぁ。



一つ息をついて、カウンターの向こうにいる店員に、焼き鳥の盛り合わせを頼んだ。