最後の恋、最高の恋。

私が誠人君を見ている時間を止めたのは、他の誰でもない誠人君だった。

ひと段落したのか、手元から顔を上げて、一度目を合わせたにもかかわらずまるで気にも留めないような感じでサイドテーブルの上の飲み物を取ろうとして、勢いよくまた私へと視線を戻した。


見事な二度見だ。


「おまっ、春陽！　脅かすなよ！　ユーレイでもいるのかと思ったじゃんか！」


そんなとこから覗いてないでこっち来い！　と手招きながらも、顔はこわばったままだ。

本当にお化けかと思ったんだろう。


「あの、ごめんね？」


おずおずと明るいリビングへ足を踏み入れて謝罪するけれど、誠人君は「ホントだよ、心臓止まるかと思った」とカップに口を付けた。


「ううん、それもそうなんだけど、あの、酔いつぶれちゃって迷惑かけてごめんね」


ぺこりと頭を下げて言えば、しばらく返事のなかった誠人君は「いや、どっちも大丈夫だから謝んな」と笑って許してくれる。

なんだろうなぁ。

一見すると本当に美月の言ったようにクマさんみたいなのに、見れば見るほど精悍なかっこよさとしか思えない。
くしゃっと笑った顔を見るたびに、好きという気持ちがどんどん増えていくんだからたちが悪い。

恋愛初心者がモテモテな社長様に恋をしている時点で、もう先は見えてるんだけど。

釣り合うようにがんばって自分を磨いて、会社でも女としてもそれなりに出来るようになってきたけれど、会社を運営する誠人君からしたら私はきっとそこら辺に落ちているいしころの一つなんだろう。

……いや、それは悲観しすぎか。

一応誠人君の“友達”というポディションにはいるわけだから、石ころじゃなくて、雑草？

結局どっちも変わらないか。