最後の恋、最高の恋。
その丸い形をしたものを手に取ってみると、白地のフェルトの中には綿が入っていて、裏返せばそこには茶色の糸でクマと思われる動物が刺しゅうされている。
いや、たぶんこれはクマだと思うんだけど。
違うのかな。
うん、きっとクマだ、これは。
相変わらずの美月の美的センス。
これは刺繍が下手だからとかそういう以前の問題だろう。
そしてそのクマのうえには“いつも”したには“ありがとう”と、つぎはぎがよく分かる文字で刺しゅうがされていた。
下手なりに必死にがんばってこれを縫う美月が簡単に想像できて、かわいいなぁ、と我が妹ながら思いつつ思わず口元がゆるんでしまう。
「かわいいよなぁ、美月ちゃん。 この、下手なりの必死さといかにも精一杯頑張りました!って感じの不格好さなんとも言えないよなぁ」
そこでやっと視線をこちらによこした誠人君。
こっちを見てほしかったはずなのに、その視線の先は私の手の中のもので私じゃない。
自分の中のひどく嫌な感情があふれそうになって、それを堪えるためと言い訳しながら誠人君の視線の先から隠すように手の中の物ごとぎゅっと握りしめた。
「美月ちゃんって典型的な妹タイプだよな、妹に欲しいわー」
そんな私の嫉妬心にも気づかずに誠人君はもう手を動かして作業に戻っている。
「妹に欲しいの?」
「だって毎日からかって遊べるし、なによりちゃんと裁縫教えられるしな兄弟なら」
その言葉に、思わず、ううん。
下心をひた隠しに、でも半ば本気で私はのちに散々からかわれることになる、一言を口にした。