最後の恋、最高の恋。
坂口さんが進んだ店の奥には暖炉があった。
煉瓦で作られた暖炉。
おとぎ話に出てきそうなメルヘンチックな作りだ。
今は夏だからそこには火は灯されていないけど、冬はこの席が一番の特等席になるんだろう。
木に包まれた空間に、なんだか不思議な気分になる。
タイムスリップしたような、いつもの日常から切り離された空間に来たような、不思議な感じ。
壁に掛けられているレースの小物とか、ブリキのおもちゃ、レトロな小瓶。
全てがこの空間を作っているんだろう。
……あのレースの小物、可愛いなぁ。
「メニューはこれね。 おススメはこれ」
ぼうっと見惚れている私とレースの小物の間を遮断するかのように、目の前にメニューが差し出されて、テーブルの向こうから少し身体を乗り出した坂口さんが、長い指で“マルゲリータ”を指さしていた。