聖夜の奇跡
「いいですね。僕もここは思い出の場所なんですよ。気持ちが続いていたら4年後の12月24日、午後3時にここで会おうなんていう口約束をしていて。今日がその約束の日なんです。来る保証はないですけどね」
「もしかして、その彼女とは、その子かな?」
おじいさんは、和輝が膝に載せていた音楽雑誌を指差して言った。
「え?あぁ、そうです。どうして分かったんですか?」
「先ほど、愛しそうにその雑誌を見つめていらしたので、もしやと思いましてな」
少し顔を赤めながら「ははは、見られていましたか」と雑誌を立てるように持ち直した。
その雑誌の表紙には、「日本人最優秀賞」の見出しとドレスアップした大石直緒の姿が載っていた。
直緒は、留学中に出た国際音楽コンクールで見事最優秀賞をとったのだ。
「彼女、バイオリニストなんです。もしかしたら、もう僕のことなんて忘れてしまっているかも……」
和輝は肩を落としながら、写真の彼女を見つめていた。