聖夜の奇跡
仕立てのいい着物に身を包んだ男性は、真剣な目で手に持っている紙に目を通していた。
「資料はこれで全部か……もうすぐ約束の時間だし、そろそろ行くか」
男は資料を鞄に入れると、テーブルの上に置いてあったコーヒーを一気に飲み干し、喫茶店を出た。
男が一歩店を出ると視線の的となる。
男、市橋涼はそんなもの気にも止めずしなやかに歩いていた。
自分が目立つ容姿であることを自覚しており、その上和服を着ているのだから視線に晒されるのは覚悟の上だったのだ。
店を出て三分もしないうちに目的のホテルへと到着した。
「よし、時間通りだ」
市橋涼は腕時計に一度視線を落とすと、ホテルの中へと入った。