そんな顔すんなよ
信号待ちで息を調える。凉菜を引き止めなきゃ。慌ててポケットの中を探った。
……あ、忘れてる。
頭の中が真っ白になって家を飛び出したから、ケータイの存在をすっかり忘れていた。
信号が青になる。俺の足は凉菜の家にしか向かわない。いや、向かえない。
間に合え。
どうか、凉菜の出発に間に合いますように。
「……っ、はぁはぁ…」
角を曲がった瞬間、山西や他の女子と話している凉菜の姿が目に入った。
よかった。間に……合った。
途端にスピードを緩め、ゆっくり歩いて近づく。
背を向けている凉菜は気づいていない。あ、山西だけは気づいたっぽい。
一歩、また一歩近づく。だけど、気づく気配はない。
コイツ、やっぱり鈍感だ。
「……おい、凉菜」
そして、震える声で凉菜の名前を呼んだ。