千年の追憶【完】
確かに、私がこのお屋敷で働き始めてから、早時様は何かと私を気遣って下さった。


何人か使用人はいるけど、一人部屋を頂いているのは私だけ。


早時様の身の回りのお世話係にも抜てきされた。


皆は若様と呼ぶけれど、私には名前で呼んでほしいと望まれた。


思えば、早時様はいつも私を見て、優しく微笑まれていた気がする。


…でも、私は単なる使用人。


早時様にそんなふうに想ってもらえる立場じゃないの。


それに…。羽琉…。


私は早時様にどう応えればいいんだろう。


「水菊…。
さっきお前が、羽琉と笑い合っている姿を見て耐えられなかった。
連れだして…悪かった。
でも本気なんだ。愛してる。」


私の心臓はキュッと締め付けられるように痛んだ。

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