千年の追憶【完】
私は、何も言えずに早時様から目を反らした。


早時様は私の頬を両手で包み込んで、自分の方を向かせた。


静かに早時様のお顔が近づいてくる。


そっと唇が重なった。


暖かい感触が口づけしている事を実感させる。


私は緑色の光の中で、驚きのあまり、しばらく身動きがとれずにいた。


数秒の後、唇は離れてまた抱きしめられた。


「羽琉にも、他の誰にも水菊をとられたくない。
ずっと側に居てほしい。」


勿体ない早時様のお言葉に、私の頬を涙が伝った。


いろんな意味のこもった涙だった。


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