千年の追憶【完】
「俺は早時(はやとき)。
よろしくな。
先ずは羽琉。お前さ…。
風呂に入って、着替えた方がいいぞ。」


羽琉は俺の言葉を聞いて、赤くなって俯いた。


捨てられるって何だ?


羽琉のこの身なりは何だ?


俺は羽琉が風呂に行っている間、辰吉を質問責めにした。


『世の中には、若様のように何不自由のない立場の子供もいれば、羽琉のように何も持たない子供もいます。
いずれ村を治める立場になる若様には、羽琉のような者にも平等の心を見せてもらえたらと、願ってしまいます。』


それから程なくして、辰吉はあの世へ逝ってしまった。


老衰だった。


これが、俺に最期にくれた、辰吉からの贈り物。
忘れられない言葉だ。


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