犬と猫…ときどき、君
「あっちーなぁ」
カーテンを開けっぱなしの大きなガラス窓に反射して映った、春希の姿。
ゆっくりと後ろを振り返ると、Tシャツの首元をパタパタしながら近寄って来た春希が、足元の冷蔵庫の前にしゃがみ込み、さっきはいらないなんて言った水のペットボトルを取り出している。
それは、本当に“いつもの春希”。
そんな彼とは対照的に“いつもの私”でいられない私は、キャップを開ける、その綺麗な指とか、飲み口に触れる唇とか……。
そんなトコロに、見惚れてしまう。
「……何?」
気配だけで私の視線に気付いて、私に視線を向ける事なく落とされた、そんな言葉。
――ただ、見惚れてただけ。
その綺麗な唇から水を口に含んで、コクリと動く喉元。
自分がそんなちょっとした部分に“男”を感じるなんて、知らなかった。
「……見惚れてた」
その一言で、やっと私に視線を向けた春希と目が合った。
「前にもそれ、言われたな」
“意味わからん”そう付け加えながら、フッと笑う。
「一番最初に逢った瞬間にね、目が綺麗な人だなって思った」
「……」
「真っ黒なのに、キラキラしてて」
「……ふーん」
“ふーん”って。
まぁ、いいんだけどさ。
少し納得のいかない私の目の前で、フタを閉めたペットボトルの上の部分を持ちながら、それをクルクル回して……。
中の水をじーっと観察しつつ、隣のベッドに腰を下ろす。
クルクル、じー……。
クルクル、じー……。
「……何、してんの?」
「んー?」
私の質問の間も繰り返される、謎の行動。
「好きなんだよねー」
「ん?」
「水の中に空気入ってさぁー」
「……」
「キラキラすんじゃん?」
「はぁ」
「実験チックで好きなんだよ」