犬と猫…ときどき、君
しんと静まり返ったバンガローの中。
さっきまで、あんなにも聞こえていた虫の声はもう聞こえない。
いま私の耳の届くのは、自分の心臓の音ばかり。
それはドガドガと、まるで内側から誰かに殴られているんじゃないかって、思うくらい……。
立ち尽くす私に向けられるのは、ゆっくりと体を起こし、ベッドの上に胡坐をかいた春希の真っ直ぐな視線。
「……っ」
私を見据えたまま、春希は黙り込んで何も言ってくれない。
どうして、私ばっかり……。
身勝手な考えだっていう事は解ってる。
それでも浮かんでしまうその想いに、少し視線を落とし、俯く寸前の私に落とされたのは、
「おいで」
困ったように笑った春希の、柔かい声だった。
その声に胸が苦しくなって、私はギュッと手を握りしめる。
「こないの?」
「……っ」
もう一度かけられた春希の言葉に、私は一度息を呑んで、ゆっくりと彼の目の前まで歩き……立ち止まった。
綺麗な指に掴まれた手がゆっくりと引かれて、ベッドの上に座らされた私の視線と、春希の瞳が同じ高さになる。
本当に綺麗……。
思わず伸ばしてしまった指で、そっと春希の前髪に触れ、思っていたよりも少し柔かいその黒髪をそっと横に流した。
「綺麗な目」
ポツリと、まるで独り言のように言葉を紡いだ瞬間、私の腕は、春希の熱い手の平に掴まれた。
「声、我慢して」
今までとは違うトーンの低いその声に驚いて、瞳を大きくした私の唇を春希が塞ぐ。
「――んっ」
ベッドの上にぱたりと倒された私に覆い被さった春希から、何度も何度も落とされるキスは、さっきよりも、もっともっと激しくて。
本当に息が止まるんじゃないかって……そう思った。