犬と猫…ときどき、君
「あー……。ちょっと後悔」
「え?」
さっきまで、熱くて仕方がなかった体が少し冷えた頃。
毛布の中で、私の体をギューっと抱きしめながら、春希が唇を尖らせた。
「声」
「は?」
「もっと胡桃の感じてる声、聞きたかった」
「……なっ!!」
せっかくの甘い時間に、私の瞳を見つめながら春希が口にしたのは、軽いセクハラ発言で。
思わず、自分の耳を塞いでしまう。
そんな私を見て、目を細めて、一人で楽しそうに笑う春希。
「声我慢してんのも可愛かったけど」
「……っ!!」
「くくくっ! 聞こえてんじゃねぇかよ!」
恨めしげな表情を浮かべながら、耳に当てていた手を下ろした私を見て、更に笑った春希だったけれど。
小首を傾げながら、
「くるみの好きな男のタイプは?」
突然、そんな質問を口にした。
「え?」
「好きなタイプ」
「なんで急に?」
「いや、そう言えば俺だけ言わされて、聞いてなかったなぁと思って」
「そうだっけ?」
「おー。……で?」
少し乱れた髪を優しく撫でながら、本当に愛おしそうな瞳で私を見つめる。
「嘘、吐かない人」
「“ウソ”?」
「うん」
「それだけ? だったら俺、完璧ですけど」
「……サザンクロス」
「はっ?」
「見たい」
「……意味がわからん」
だって、見てみたいんだもん。
「じゃー……サザンクロス、見せてくれる人」
もう一度口にしてみたその言葉に、呆れ顔をした春希だったけど、「沖縄なら見れるか」とポツリと呟いて。
「バイトして金貯めて、二人で行くか?」
笑いながら、そう言ってくれたんだ。
「ホント!?」
「おー」
「ホントにっ!? ホントにホント!?」
大はしゃぎする私に“落ち着けっ!!”と、春希は軽くチョップをくらわせる。
「じゃー、卒業旅行だな」
「うんっ!! 楽しみすぎる!」
「……」
「え?」
「この……理性デストロイヤーめ」
「はっ!?」
よくわからない言葉と共に、再びベッドの上に組み敷かれた私の目の前には、
「六個は使い切れなくても、半分くらいならいけるか」
そんな恐ろしい事をポツリと口にしながら妖しく笑う、彼の綺麗な顔があった。