犬と猫…ときどき、君


この子……苦手だ。

それが初めて間近で接する彼女に、直観的に抱いてしまった感情だった。


――でも、私もよく人から誤解を受けるし、もしかしたらこの子だって、そうなのかもしれない。


本心なのか、それとも自分に言い聞かせる為なのか。

私はそんな事を思いながら、春希に視線を移す。


「ダメですか?」

だけど、甘えたようなその声が、やっぱり耳についてしまう。


もし他の誰かに対しての行動だったら、ここまでモヤモヤとした気持ちにはならないのかもしれない。

相手が春希だから、余計になのかも。


「……俺、よくわかんねぇし、ここは仲良い奴らの集まりだから」

大学でも一、二を争う可愛さだと言われている“しーチャン”。

そんな彼女に、表情も変えずそう言い放った春希を見て安堵する私は、大概性格が悪いのかもしれない。


松元さんには悪いけど……良かった。


春希の“お断り”に、私が胸を撫で下ろした、ちょうどその時。


「あれー!? 詩織ちゃんだっ! どうしたの!?」

「おぉー、マジだ!! なになに? まさかの入会希望!?」

“篠崎軍団”ではない数人の男の子達がその存在に気付いて、慌てて彼女の元に駆け寄った。


「はい! 四年の松元 詩織です! ソフトボール愛好会に入りたいんですけどぉー……」

小首を傾げて、相変わらずの上目遣い。


それって絶対、確信犯でしょ?

案の定、女性陣はしかめっ面で、サキに至っては……

「チッ!!」

思いっきり、舌打ち。


――まぁ、わからないでもないけど。


結局それから、渋い顔をする篠崎君と春希と、ブチ切れる女性陣の意見は押し退けられて、ソフトボール愛好会に入る事になった松元さん。


「何であんな女を入れんのよっ!!」

「サキ、ちょっと落ち着きなよ」

「だってー……」

興奮状態のサキの背中をポンポン叩く私は、その時点で、気付いていなかったんだ。


本当に、何にも。


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