犬と猫…ときどき、君


不貞腐れる大の男二人を睨みつけて、大きな溜め息を吐く。


私と春希は聡君の研究を引き継ぐことになったから、指導してくれるのも当然聡君。

それなのに、いーーーっつも顔を合わせればこんな風に、バカみたいな言い合いをする二人。


「それよか、胡桃」

「ん?」

「バイト、どうする? そろそろ返事欲しいってさ」

「あー……」

聡君に振られた話題に曖昧に返事を濁しながら、春希にチラリと視線を送る。


「……」

ですよねー。

どう見ても怒っている――というか不機嫌全開な春希に、思わず肩を竦めた。


「城戸~、胡桃は居酒屋は無理だろ」

「んな事、わかってますよ」

「それに、親父さんだってそこは賛成しない」

「……」

五年生になってから、春希と二人で行く“卒業旅行”の為にバイトを探しているんだけど、この辺は本当に田舎で、バイト先があまりない。


あるのは数少ない中高生の家庭教師のバイトか、居酒屋さんくらいで……。

家庭教師のバイトは、研究室があるから時間的に難しい。

春希は居酒屋さんで働く事にしたみたいだけど、私は喘息で、煙草のけむりが無理だし。

そんな時、聡君が自分が働いている喫茶店のバイトを見つけて来てくれたんだ。


「ねぇ、春希~」

「……」

春希だって、本当はこれが最良だってわかってるくせに。


「お前なぁ……。ガキじゃないんだからさぁ、くだらないヤキモチ妬くなよ」

「あんたが“胡桃”“胡桃”言ってるから悪いんでしょ?」

「もー!! いい加減にしなさいってばっ!!」

駄々っ子春希は、どうしても私が聡君と同じ所で働くのが嫌らしい。


「大体ね、私と聡君はイトコなの!!」

「知ってる」

「だったら、別にそんな風にならなくたっていいでしょー!?」

すっかり不貞腐れる春希に、私はもうお手上げだ。

< 117 / 651 >

この作品をシェア

pagetop