犬と猫…ときどき、君


くっそー……。
このままじゃ、埒が明かない。

仕方がないから、私は“駄々っ子モード”が発動している春希に、最後の切り札を切ったんだ。


「じゃー、旅行いけないね」

「……」

「楽しみにしてたのに……」

「……」

「でも、しょうがないか……。私が喘息なのがいけないんだよね。ごめんね、春希」

「……」

「そうだよ。私の――」

「だぁー!! くそっ!! わかったよ!! わかりましたぁ!!」

「ホント!?」

頭を掻きむしりながら、やっと観念した春希。

やり方は卑怯だったかもしれないけど……仕方がない。

こうでもしないと、春希は折れないもん。


「あー、もしもし? 及川だけど。オーナーいる?」

私達の攻防を、携帯をパタパタしながら眺めていた聡君は、戦いの終焉を見届けるのと同時にそれを開き、早速決まったバイト先に電話をかけていた。


「春希ぃ……」

聡君が電話をしている間も、あきらめ悪くブスッとする春希を、私は眉間にシワを寄せながら見上げる。


その瞬間、耳元にスッと唇が寄せられた。

「浮気したら、許さん」

そんな言葉と共に“フッ”と吹きかけられた息。


「……っ!!」

驚いて、きっと赤くなっている耳を押さえながら顔を向けると、そこにはいたずらっ子のように笑う春希がいた。


「しっかり働けよー」

そう言って、また唇を尖らせてプイッと顔を逸らすから。

「あははっ! 春希こそ、しっかり稼げよ~!」

私はついつい、笑ってしまったんだ。


ちょっと面倒くさいけど、春希にヤキモチを妬かれるのは嫌いじゃないかも――なんて言ったら、きっと春希は怒るんだろうなぁ。

「もう一生、ヤキモチなんて妬いてやんねー!!」とか言いながら……。


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