犬と猫…ときどき、君
――……
―――……
「胡桃と城戸って、付き合ってどんくらいになるんだっけ?」
バイトを始めて数週間が経った頃。
お客さんが途切れ、手持無沙汰にしていた私の横にやってきた聡君が、突然そんな質問を投げかけた。
「えっと、二年半くらいかな」
「そっか」
「何で?」
「いや、何となく。こんなに男に懐いてる胡桃、初めて見るからさ」
下を向いて楽しそうに笑う聡君に、私は何だか恥ずかしくなって、誤魔化し笑いを浮かべる。
「聡君は?」
「ん? 何が?」
「彼女」
そう言えば聡君ってモテるのに、ここ数年、彼女がいるという話しを聞いた事がない。
「聞かなくても知ってるだろ?」
聡君は苦笑いを浮かべているけれど、すごく勿体ないと思う。
「世の中の女の子は、見る目ないねー」
「何だよそれ」
「だって聡君、こんなにカッコいいのに! 頭だっていいし!」
イトコこんな事を言うのはおかしいかもしれないけど、本当にそう思う。
「胡桃がそんな事言うと、俺が城戸に睨まれるんだから。マジで勘弁しろよ」
フッと笑った聡君は、私の頭をクシャリと撫でて“カラン”という音を響かせて、お店に入って来たお客さんの接客に向かった。
――ここでバイトを始めてから、気付いた事が一つある。
「……」
ほら。
あのお客さんだって、そう。
それは、ここに来る女の人で、聡君を目当てにやってくる人が結構いるということ。
時々メアドを聞かれたり、手紙を渡されたりしてるけど……。
何故か全部断っているらしい聡君。
あの子だって、可愛いのに。
何の気なしに眺める先には、少し頬を赤らめて、聡君の接客スマイルに見惚れている女の子の姿。
まぁ、好きじゃない子と付き合うワケにもいかないもんね。
それを考えると、こうして春希と付き合っていることが、改めてすごく幸せに思える。
……独り身の聡君には、悪いけど。