犬と猫…ときどき、君


――……
―――……


「胡桃と城戸って、付き合ってどんくらいになるんだっけ?」


バイトを始めて数週間が経った頃。

お客さんが途切れ、手持無沙汰にしていた私の横にやってきた聡君が、突然そんな質問を投げかけた。


「えっと、二年半くらいかな」

「そっか」

「何で?」

「いや、何となく。こんなに男に懐いてる胡桃、初めて見るからさ」

下を向いて楽しそうに笑う聡君に、私は何だか恥ずかしくなって、誤魔化し笑いを浮かべる。


「聡君は?」

「ん? 何が?」

「彼女」

そう言えば聡君ってモテるのに、ここ数年、彼女がいるという話しを聞いた事がない。


「聞かなくても知ってるだろ?」

聡君は苦笑いを浮かべているけれど、すごく勿体ないと思う。


「世の中の女の子は、見る目ないねー」

「何だよそれ」

「だって聡君、こんなにカッコいいのに! 頭だっていいし!」

イトコこんな事を言うのはおかしいかもしれないけど、本当にそう思う。


「胡桃がそんな事言うと、俺が城戸に睨まれるんだから。マジで勘弁しろよ」

フッと笑った聡君は、私の頭をクシャリと撫でて“カラン”という音を響かせて、お店に入って来たお客さんの接客に向かった。


――ここでバイトを始めてから、気付いた事が一つある。


「……」

ほら。
あのお客さんだって、そう。

それは、ここに来る女の人で、聡君を目当てにやってくる人が結構いるということ。

時々メアドを聞かれたり、手紙を渡されたりしてるけど……。

何故か全部断っているらしい聡君。


あの子だって、可愛いのに。

何の気なしに眺める先には、少し頬を赤らめて、聡君の接客スマイルに見惚れている女の子の姿。


まぁ、好きじゃない子と付き合うワケにもいかないもんね。

それを考えると、こうして春希と付き合っていることが、改めてすごく幸せに思える。


……独り身の聡君には、悪いけど。

< 120 / 651 >

この作品をシェア

pagetop