犬と猫…ときどき、君
「おー、お疲れ」
従業員出口から外に出ると、目の前のガードレールに腰かけながら缶コーヒーを飲んでいたらしい春希が、ゆっくりと立ち上がった。
「ゲソ天は!?」
「おいっ! まずは俺を労えっ!!」
「あははっ! 冗談だよ! 迎えに来てくれて、ありがとう」
「いえいえー。イトコン悔しがってただろ」
“くくくっ”と笑いながら私の手を取った春希からは、お店で付いた、嗅ぎ慣れない煙草の匂いがする。
「そんな事ないよ。“城戸にヨロシク”って言ってたし」
「けっ! 大人ぶりやがってー」
そう言いながらも、楽しそうに笑う春希。
「だいぶヤキモチ妬かなくなってきたね~」
「はぁ~? 元からヤキモチなんて、妬いてませんけどぉ? 意味わかんないんですけどー」
ブンブンと繋いだ手を振りながら、春希がそんな言葉を口にするから、思わず笑ってしまう。
「あっそー。ならいいんですけどー」
「……それ、俺の真似?」
「はぁ~? 違いますけどぉ?……痛っ!! コラー!!」
口調を真似しながら歩く私のお尻を、春希が大事なゲソ天の入った袋でバシッと叩くから、私は眉間にシワを寄せてその顔を睨みあげる。
「胡桃が悪いんですー」
「でもゲソ天で叩かないでっ!! ボロボロになっちゃう、衣がっ!!」
「お前、どんだけゲソ天好きなんだよ!!」
大きな月が浮かぶ夜の道を、二人でこんな風にプラプラ手を繋ぎながら、歩いて帰る。
「春希ー」
「あー?」
「楽しいねー」
「……そうですねー」
「もーっ!!」
せっかく幸せ気分をお裾分けしようとしたのに。
そのどうでも良さそうな春希の返事に、私は唇を尖らせる。
だけど、そんな私の唇を春希はそっと塞いで、いたずらが成功した子供のように笑うんだ。