犬と猫…ときどき、君
「そうですよー! だって、及川さんてスポーツも万能だし頭もいいし。それにカッコイイし!」
もう、いい加減にして。
「松元さん。私と聡君は、そういうんじゃないから」
「えー! でも、みんな結構、ウワサしてますよー?」
この子の目的は、私と聡君の仲を春希に疑わせること。
それだけの為に、聡君まで利用しようとしているんだ。
怒りで呼吸が震えて、握る指先にギュッと力が入る。
“いい加減な事言わないで”――そう口にしようとした瞬間、私よりも先に口を開いたのは、目の前の彼女を睨むように真っ直ぐ見据える、聡君だった。
「くだらねぇ」
聞きなれた柔かい声とは全く別の、低くて苛立ちを含んだその声に、私は驚いて視線を上げた。
だけど私と目が合うと、それをいつものように、少し細めて……。
「胡桃、明日のバイトなんだけどさ」
さっき彼女が私にしたように、“しーチャン”の存在を無視して話を始めたんだ。
私は聡君と。
春希は“しーチャン”と。
「ほら、城戸もそろそろ実験始めるぞ」
しばらく続いた、お互いのバイトの話は、聡君のその一言で打ち切られ……。
「……はい」
不機嫌なままの春希は、私に視線を向けることなく、“しーチャン”の隣の席から立ち上がり、
「胡桃、行こう」
「……」
何も言えないでいる私の腕を掴んで、ホールを後にした。