犬と猫…ときどき、君
「どうしてそんなこと言うの?」
「……ごめん」
「ずっと一緒にいたのに、私の気持ちは伝わってないの?」
「違う。そうじゃない」
だって、そういう事でしょう?
春希は困ったように眉間にシワを寄せて下を向くと、小さく溜め息を吐いた。
どうしてあの子のせいで、私達がこんな事にならないといけないの?
「――……っ」
やっぱり、嫌だ。
傷が浅いうちに、何とかしないと。
きっと、どんどん狂ってしまう。
そう思った私は、感情的にならないように自分に言い聞かせながら、静かに口を開いたんだ。
「私は、春希のことを信じてる」
「……」
「だけど、ホントは……時々怖くなる」
少しだけ驚いた様子で顔を上げた春希と、視線が交わって、一瞬言葉に詰まってしまう。
――でも、話さないと。
「あの子が、怖い」
「……え?」
すぐに私の言葉の意味を理解する事が出来なかったのか、春希は眉根を寄せて、じっと私を見据えた。
「春希のことは信じてるけど。それでも、さっきみたいにあの子が……」
さも当然のように、春希の隣に座った松元さん。
それを思い出すだけで、胸がこんなに痛んで、声が震えてしまうんだ。
「当然のように春希の隣を歩く日が来るんじゃないかって、そう思うと……怖い」
感情的にならないように、頑張ったのに……。
それでも、どうしても。
それを想像しただけで、やっぱり涙が出てしまうんだ。
こんなにあなたの事が好きなのに――……。
それでも春希は、あの子の言うことを信じるの?
必死に涙を飲み込もうと唇を噛む私に、スッと伸ばされた春希の指先。
その綺麗な指が、そこを静かになぞる。
「唇、切れてる」
少し掠れたその声。
視線を上げた私の後頭部に回された大きな手が、私の体をグイッと引き寄せた。
「ごめん」
ギュッと抱き寄せられた私の耳に届くのは、心地よい心臓の音と、少しこもって聞こえる、春希の声。