犬と猫…ときどき、君
「俺ばっかり、不安なんだと思ってた」
「……っ」
「胡桃がそんな風に思ってるなんて、全然気付かなくて」
悔しそうな声に、私の胸はしめつけられてギュッとなる。
「ごめんな」
春希の気持ちは、痛いほどに伝わっているから……。
もう一度囁かれたその言葉に、私は首を横に振った。
「私も悪いの。多分、聡君と噂になってるっていうのは、嘘だと思う。少なくとも私は聞いた事がないし」
「……ん。俺も」
「だけど、そんな風に言われて、春希を不安にさせる状況を作ってる事に変わりはないから」
「……」
「聡君とは、もうちょっと距離を置くね」
涙をひっこめたくて、無理やり笑顔を浮かべた私に、春希は困ったような笑顔を返して、「そんな事しなくていいよ」と頭を優しく撫でてくれたんだ。
「確かに、全く不安にならないって言ったら嘘になるけど」
「だったら……」
「でも、さっきのは違う」
「……え?」
困ったような笑顔を浮かべたままの春希の顔を、下から見上げると、その頭を無理やり自分の胸に埋めさせて、
「さっきのは、自分が情けなくなっただけ」
ポツリと、そんな言葉を落とした。
どういう意味?
春希が情けなくなるような要素なんて、どこにあったの?
頭上から落とされた春希の言葉に、湧き上がる疑問。
まるでそれを読み取ったみたいに、春希はもう一度口を開いた。
「本当は、すぐに否定したかった」
「……え?」
「胡桃と、及川さんの話が出た時。俺が、すぐに否定するべきだったのに」
そこで一瞬言葉を詰まらせるから、分かってしまった。
顔を上げた私の瞳に映ったのは、凄く悔しそうな表情を浮かべる春希の顔。
「一瞬でも“もしかして”って思って……。及川さんに胡桃を守らせた自分が、すげームカつく」
「……春希」