犬と猫…ときどき、君

しばらくは、大学で会う度に春希に付きまとって、今まで放置していた“ソフトボール愛好会”まで使って、関わりを作ろうとしていた。


だけど、明らかに不機嫌なオーラを出し続ける春希に嫌気がさしたのか、気が付けば傍からいなくなって、“仲野君”という彼氏まで作っていた。


「ホント、人騒がせな女ー」

そんな情報を、どこかから仕入れてきたのは、他でもない。

目の前で溜め息交じりにそんな言葉を口にする、マコなんだけど。


「ホントにね。勘弁して欲しいよ……」

実験に戻った春希を見送った後、カフェテリアに移って、マコにおごってもったコーヒーから立ち上る湯気を、ぼんやりと眺めていた。


「でもさぁ、ホントに諦めたのかね? あそこまでハマってたくせに」

「……」

私も、それが少し不安だった。

わざわざ同じバイト先で働いて、人を使ってまで私と春希の間を邪魔しようとした彼女。

そんな人が、そんなに簡単に春希を諦めて、他の男の子に乗り換えるなんて事が出来るのかな?


しかも、申し訳ないけど“仲野君”は、何て言うんだろう……。

真面目を絵に描いたような男の子で、春希とは全く違うタイプの子。

いや、春希だって篠崎君とかと比べると、外見は真面目そうなんだけど。


とにかく、春希を好きだった彼女が選ぶには、ちょっと首を傾げてしまうような相手だったんだ。


「まぁ、今度何かしてきたら言ってよ」

「え? なんで?」

「シメる」

「……」


マコ。
ありがたいけど、目が笑ってないよ。


「そ、それよりさ」

「ん? 何?」

慌てて話題を変えた私に、まるで何事もなかったかのように視線を移したマコ。


「マコ、私と聡君の噂とかって聞いた事ある?」

あの子の言葉を信じるわけじゃない。

でも、やっぱりちょっと気になっていたんだ。


「あー……」

私の質問に、一瞬目を大きくしたマコは、上を向いて少し考えるような素振りを見せた。


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