犬と猫…ときどき、君

「胡桃ー」

「んー?」

「沖縄さ、やっぱ二月とかに行かねー?」

「二月? 十二月じゃなくて?」


すっかり春希のテリトリーになってしまった、私のお気に入りの真っ赤なソファーの上。

寝転んだまま、旅行会社から貰ってきたパンフレットを眺める春希に視線を向ける。


「おー。よく考えたら、十二月って卒論発表あって、グッタリしてんじゃねーかなぁと思って」

「あー、なるほど」

淹れたばかりのコーヒーを彼に差し出しながら、ソファーの横のフローリングに腰を下ろした。


「サンキュー」

「いえいえ。じゃー、二月にしよっか」

「その方が、飛行機代も安いっぽい」

「それなら、その分いいトコ泊まろうよ!」

笑いながら身を乗り出した私を、春希が優しい笑顔を浮かべたまま眺めるから。

「え? なに?」

微笑まれる意味がわからない私は、目を瞬かせる。


「いや、楽しみだなーと思って」

「……」

「これでやっと、俺も胡桃の“好きなタイプ”に昇格できる」

クスクスと楽しそうに笑いながら、私を横から抱きしめた春希。


「くすぐったいー」

「うん」

「……春希?」

「でも、気持ちいいでしょ?」


私の首筋に唇を這わせながら、柔かい声で、そんな言葉を囁くから、

「うん。でも」

「ん?」

「これじゃー……足りないかも」

「言ってくれるねー」

結局今日も、旅行の話は中断。


「楽しみだね」

「そうだな」

「幸せだね」

「だな」

どんな時間だって、一緒にいられたら、それでよかった。

幸せすぎて、それに慣れる事なんてなかった。


油断すると、幸せで涙が出そうになるくらい――……

幸せだったんだ。


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