犬と猫…ときどき、君
だけど松元さんは、私の予想に反して下を向き、いつの間にか取り出した携帯電話をいじっていた。
まるで“二人の会話になんか興味ない”と、そう言わんばかりの様子で。
一体何をしているのか……。
携帯の画面を見ながら、微かに口角を上げる彼女。
その顔から目を逸らすことが出来ないでいる、私の耳に届いたのは、春希の溜め息だった。
「すいません」
「……」
「俺、ちょっと出てきます」
そんな言葉と共に、机の上に置いてあった自分のコートを掴んで出口に向かう春希と、一瞬目が合った。
「春希……」
口をついて出たその言葉は、少し掠れていて、自分の喉がカラカラだという事に気が付いた。
私を見て笑った春希は、そのまま何も言葉を発する事なく、いつもみたいに頭をポンと撫でて、開け放ったままになっていた扉から、出て行ってしまった。
その背中を追いかけたいと思うのに、足が動かない。
「……っ」
だって、あんな春希の顔を、私は初めて見たから。
いつだって、私の前では自然体でいてくれた春希。
あんな作ったような彼の笑顔を、私は知らない――……。