犬と猫…ときどき、君
「ごめん」
ゆっくりと私を解放した春希の手が、濡れた頬に触れる寸前で止まった。
「はる……き?」
「ごめんな」
私の頬に触れるはずだったその手は、強く握りしめられたまま。
涙を拭ってくれることは、なかった。
「何か、調子悪いかも」
困ったように笑って、私から視線を逸らした春希は、そのまま起き上がると「先寝るわ」とだけ告げて、呆然とする私の頭をそっと撫で、ベッドルームに消えて行った。
「……っく」
わからない。
春希が、わからない。
「ひ……っく」
ちゃんと話そうって思った。
話して、春希の気持ちを聞こうって、そう思った。
それなのに――……。
「どうして……?」
――ねぇ、春希。
どうして春希は、あんなに悲しい顔をしていたの?
私が悪い?
「だったら言ってよぉ……」
大好きな真っ赤なソファーの上に、涙がポタポタと零れ落ちる。
好きだから、知りたい。
好きだから、理解したい。
好きだから、大好きだから。
それなのに――……
「どうして……っ」
どうして、上手くいかなくなっちゃったんだろう?