犬と猫…ときどき、君


「さむっ…… 」


大きな木に囲まれた、石造りの図書館。

日陰になっているせいか、その周りはいつも、他の場所よりも気温が低く感じる。

寒くて腕の辺りを摩りながら、ゆっくりとドアを開けて、館内を見廻した。


「どこだろ?」

いつも空いているこの時間は、人がまばらどころか、下手したら誰もいないようにも思える。

本がぎっしりと並べられた本棚の間を、一列一列、春希の姿を探しながら、ゆっくりと歩く。


ホントにここにいるのかな?

仲野君の見間違いとか?


そんな疑問が、頭を過ぎったその時、正面の大きな窓の傍に立つ、春希の姿を見つけた。


薄暗い館内。

その窓から見える空は、真っ青で……。


逆光の中、十字の窓枠の前に立つ春希の影になった姿が、くっきりと、その青の中に浮かび上がる。


その時の私は、どれだけ呑気だったんだろう。

いや、“呑気”どころじゃないか。


――あぁ、綺麗だなぁ。


思わず見惚れた、その景色。

だけど……。


「――え?」

口に出したはずのその声は、自分でも驚くくらい小さくて、掠れていて。

シンとした図書館の冷たい空気に、吸い込まれるように消えていった。


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