犬と猫…ときどき、君
結局、涙が引いたのは、それから数十分経った頃。
何も言わず、私の隣にいてくれた聡君に「もう平気だから」と声をかけた時だった。
「……ただいま」
帰って来た春希は、不機嫌そうに、無言で自分を見上げる聡君に視線を落とす。
「何でいるんすか?」
真っ直ぐその目を見据え、少し低い声で、そんな言葉をかけた。
春希のその言葉を聞いて、一瞬私に視線を向けた聡君に、私は小さく頷く。
「もう帰るよ」
「……」
「私が呼んだの。ごめんね、聡君。もう平気だから」
「うん。じゃー、またな」
「ありがとう」
優しい口調で言葉を落とした聡君は、春希に声をかける事なくその横を通り過ぎ、私の部屋を後にした。
「何なんだよ、あの男」
「え?」
聡君が出て行った部屋に、一瞬流れた沈黙。
その沈黙を打ち消したのは、溜め息交じりに落とされた、春希の声だった。
私はそれに、視線を上げる。
「彼氏いる女の部屋に、普通平気で上がり込むか?」
「聡君は……っ!!」
思わず、大声を上げてしまった。