犬と猫…ときどき、君
結局、春希ときちんと話しが出来たのは、あの日から、三週間以上も経った頃。
論文の為の実験を、すべて終わらせてからだった。
「ごめん。別れよう」
そう口にした瞬間、春希はそれが分かっていたかのように、小さく何度か頷いた。
まるで、何かに納得するかのように。
――そして。
「及川さん?」
何度も何度も否定した、聡君との関係を口にする。
やっぱり、信じて貰えないんだね。
何も言えないでいる私に、春希は溜め息を吐き出す。
「やっぱそうか……」
私は一度瞳を閉じて、自嘲的に笑う春希に向かって、ゆっくりと口を開いた。
「春希の事が、分からなくなった」
「……え?」
予想外の私の返事に、少し驚いた様子で、大好きだった黒い瞳を大きくする。
「聡君は関係ない」
だけど、真っ直ぐにその目を見つめていた私の視線は、スッと差し出された、春希の携帯に落とされた。
「じゃーこれ、何?」
「え?」
そこにあったのは――……
あの日、図書館を飛び出して泣きじゃくっていた私を抱きしめる、聡君の姿。
それを見ても、動揺はしなかった。
だってきっと、このくらいの事は起きてると思っていたから。
一体、何が可笑しいのか、私の口元から漏れてしまった笑い。
視界の端に、その私の表情を見て、眉間にシワを寄せる春希が映った。
「これで、おあいこになるのかな……」
「は?」
「ホントの事を言ってくれるの、ずっと待ってた」
「胡桃?」
「ホントは見てたの」
「何の話だよ」
――春希。
こんな事になっても、私はやっぱり、あなたの事が好きみたい。