犬と猫…ときどき、君
さて。
医局の位置から90度ずれた所にある、やかましいアニテク部屋。
その磨り硝子が閉まっている事を確認した俺は、ポケットから携帯を取り出した。
「……」
「もしもーし」
五度目のコールで、電話を取ったソイツ。
「おー……。今、平気か?」
「あぁ。そろそろかかってくる頃かなぁって思ってた」
そんな事を口にしながら、ソイツは、携帯越しに少し笑った。
「どう?」
「先週分も大丈夫。でも、あっちはもうちょい時間かかりそう」
「そっか。悪いな、いつも」
「ホントだよ!! マコちんのいない隙をついて、俺がどれだけハラハラしながらやってるか!」
「あー……そういやこないだ、椎名が“透が怪しいっ!”って、胡桃にグチってた」
「マジでっ!?」
「おー。でも“アイツ、エロ画ダウンロードしてるだけだから”って誤魔化しといたぞ」
「そっかぁ。助かるよー……ってバーカ!! ふざけんな!! 何してくれちゃってんだよっ!!」
「くくくっ」
「笑い事じゃねぇぞ!! だから最近、視線が冷たかったんだ……」
「まぁ、仲が良さそうで何よりだよ」
「……」
「何だよ」
「……そっちは?」
「んー?」
「誤魔化すなよ」
「……変わんねぇよ。あー、でもさっき、“胡桃”って呼んでキレられた」
しかも、泣きそうな顔して。
まぁ、本人はそんなの気付いてないだろうけど。
「……」
急に無言になったソイツに、俺は小さく溜め息を吐く。
「篠崎」
「お、おー」
「何回も言ってるけど、お前のせいじゃねぇぞ」
「……」
「ホント、助かってるよ」
そう言って笑った俺に、篠崎は、いつも同じ言葉を繰り返すんだ。
「なぁ、ハルキ。お前、いつまでこんなこと続けんだ?」
――“いつまで”って、決まってんだろ。
いつもの篠崎の質問に、いつもの返事をしようと口を開いた瞬間、ランの扉がわずかに開いた。
「悪い。切るわ」
篠崎の返事も待たずに携帯を切り、それをポケットにしまい込む。