犬と猫…ときどき、君
連れて来られたのは、誰もいない講義堂の裏だった。
「なんすか? 俺、悪いけど男には興味ないですよ?」
相変わらず俺を真っ直ぐ見据えるその瞳から、視線をそらす事もせずに、俺はそんな言葉を口にした。
それを聞いてか、呆れたような溜め息を落とす及川さんにまたイライラが増す。
「及川さん、いい加減にして下さい。俺、胡桃を――」
“追い掛けないといけないんです”
そう、続けようとした。
だけど、俺はその言葉を口にする事が出来なかったんだ。
目の前に差し出された、及川さんの携帯。
それを見た瞬間、息を呑んだ。
何だ……これ。
何でこの人が、これを?
「下のサイト、見てみろよ」
混乱した頭のまま手を伸ばした俺は、携帯を受け取り、ゆっくりと、その下にあったURLをクリックした。
“ワケがわからない”
それを見た瞬間、それ以外の言葉が頭の中に浮かばなくて、体中の血液が熱くなる。
呆然とその画面を見つめる俺に、及川さんが静かに口を開いた。
「俺宛てじゃねーぞ」
「……」
「胡桃宛てに届いたんだよ」
「……っ」
その言葉に、眩暈がした。
添付されていた画像も最悪だけど、それ以上に、そのサイトの内容。
「……誰が?」
口をついて出た自分のその声が、震える。
「知らねーよ。とにかく、お前は行くな。これ以上、胡桃を巻き込むな」
吐き捨てられた及川さんの言葉に、俺は怒りで震える指を握りしめて唇を噛みしめる事しか出来なかった。