犬と猫…ときどき、君
篠崎の言葉を聞いて胸を撫で下ろすと同時に、気付いたらギュッと握りしめていた手をゆっくり解く。
「助かるよ。……やっとお前のオタク力が役立つな」
「“オタクリョク”って、やめて頂けます~?」
不貞腐れたように口を尖らせる篠崎だったけど、少し考え込んで……。
「春希、協力はするよ」
今度はさっきとは打って変わって、静かな声で俺に話しかけた。
「……」
「けど、その前に。ここに書いてある“しーチャンとハルキが付き合ってる”って、ホント?」
一番触れて欲しくないそこに、あっさり触れてくる辺りは、さすがずっと一緒にいただけの事はあるよな。
くだらない事を考えながら、少し笑った俺は、ゆっくりとその質問への答えを口にする。
「……あぁ、ホントだよ」
だけど、その返事に特に驚く事もしないコイツは、もしかしたら気付いているのかもしれない。
まぁ、こんな話し持ち掛けた時点でバレバレか。
「取りあえず、何で松元サンと付き合ってるのか話してくんない?」
「……」
「あと、このチューの理由と、何を企んでるのか」
呆れたような笑みを浮かべ、パソコンから向き直った篠崎は、その茶色い瞳を真っ直ぐ俺に向けた。
まるで、俺の心の中を覗き込むように。
コイツにだったら、全部話せると思った。
むしろ、胸の中に詰まり過ぎて、どうしようもなくなったこの汚ない感情を、全部ぶちまけてしまいたかった……。
「胡桃には、何があっても言うなよ。あと、椎名にも」
「わかってるよ」
「情けなくて、自分が嫌になる」
一度天井を仰いで、大きく息を吐き出した俺は、自嘲的に笑いながらそう前置きをして。
相変らず真っ直ぐ俺を見据え続けている篠崎に、ゆっくりと、あの日あった事と、それから……ここに至るまでの経緯を話し始めたんだ。