犬と猫…ときどき、君
――二人に、何かあったのか?
浮かび上がったそんな考えを打ち消すように、俺は小さく頭を振る。
「ほら、ハルキさんだって気になるんでしょう?」
キーボードを打つ指が一瞬止まった俺を見て、何が可笑しいのか、いつの間にか隣に立っていた松元サンが、楽しそうに笑う。
その様子に、またイライラする自分。
だけど、本当は分かってるんだ……。
どんどん湧き上がる、自分の中の、汚なくて弱い感情。
“今胡桃が好きなのは、本当に俺なのか?”
“昔と変わらず、俺に傍にいて欲しいって思ってるのか?”
――“今一番、胡桃の傍にいるのは……誰だ?”
だから俺は、惚けたフリをして、その真相を確かめたいと思ってしまう。
「ご丁寧にどーも。誰がそんなこと言ってたの?」
「えっとぉー」
少し考え込むように、首を傾げながら唇に人差し指を添えるその仕草。
そんな事されたってさ、俺にはどうしたって、アンタが可愛いとは思えないんだよ。
ノロノロと、勿体ぶるその様子に、小さく溜め息を吐いた瞬間、
「みんな戻って来ちゃいましたね!」
廊下からガヤガヤと聞こえた、数人の話し声。
「場所、移動しましょう。図書館で待ってます」
「……」
「先行ってますから、絶対来て下さいね!」
人の返事も待たずに、にっこりと笑ったそいつは、そのまま戻って来た奴らと入れ替わるように、研究室から出て行った。